特別インタビュー

オリジナル商品が生まれるまで

『キャットステップ』の場合

皆さんからご質問いただく内容で多いのが商品の開発に関するものです。普段使っている商品のアイデアが、メーカーの中でどのように生まれ、どれぐらいの期間で出来上がっていくのか、興味はあっても、知る機会はほとんどありません。ここではクラウドファンディング・Makuakeの支援プロジェクトでもご好評をいただいた『キャットステップ』を例に、タカラ産業におけるオリジナル商品開発の流れを紹介します。

お話ししてくれたのはこの方

開発部

T課長

2002 年入社

CAD設計士として経験を積み、2002年、タカラ産業入社。設計課に配属され、OEM商品の設計に従事。2015年より開発部に異動となり課長に就任。以降、オリジナル商品の開発に携わる。物干金物『DRY・WAVE』『TAKARA PAPER HOLDER』『網戸用犬猫出入り口』『キャットステップ』などの企画・開発に従事。

オリジナル商品の企画開発は開発部の仕事

企画から量産体制に入るまでが開発部の仕事

開発部というのはどのようなお仕事をされるところですか。

まず、タカラ産業は、OEM商品事業とオリジナル商品事業の2事業を行っています。その中で、開発部が担っているのは、オリジナル商品の企画・開発です。OEM商品は、お客様からいただいた仕様を図面に起こすところから、全て営業部の中で行っています。

開発部にはどのような経験をされた方々が所属していますか。

開発部には、CAD技術者や機構設計専門の技術者、電気のプロ、チラシやホームページの作成などを含むプロモーションを担当する人など、それぞれ専門知識や技術を持った人が集まっております。基本的には全員、同じ仕事をしており、担当する商品の企画提案からはじまり、金型の発注、承認(※)まで担います。
※承認=量産に入る前の最終工程。開発を経て、金型発注まで終わり、実際の商品が出来上がってきた段階で、様々な試験を実施。それらの試験をすべてパスしたら承認される。承認を経て量産体制に入るところまでが開発部の役割。

オリジナル商品はこうして生まれる

一般社員のアイデアから生まれ、マスコミで紹介された商品も
〜アイデアが企画になるまで〜

商品企画のアイデアはどのように生まれるのですか。

開発部の社員全員で考えています。開発部の社員は全員、起案書を最低でも月1枚以上出すという目標があります。入社後~数年の社員は、アイデアを出す練習を兼ねて週一回出していただいています。ある程度、経験すると精度が上がってきますので、数より精度をあげていくようにしています。商品を生み出すための取り組みとしては、部内のミーティングで出てきたアイデアを試作したり、デザインや動きを評価しながら審査しています。2年前から3Dプリンタを導入しましたので、試作品が従来よりも簡単に作れるようになりました。また、開発部以外の部署からも公募しています。一般生活者の視点を商品企画に取り入れることが目的です。思いつきレベルでアイデアを紙に書いて提出してもらっています。提案には、10点満点のポイントをつけ、1年間の合計ポイントが高い人は社内で表彰されます。提案を出すのに命をかけている社員も何人かいるみたいですよ。

実際に他部署のアイデアを商品化した事例はおありですか。

一件だけ商品化されたアイデアがあり、社内で表彰されていました。 『サオ・アップ』という商品です。NHKの『おはよう日本』で2回ぐらい取り上げられていました。『サオ・アップ』はマンションのベランダで洗濯物を干すための道具です。最近のマンションは、ベランダの物干しを低い位置に設置して、洗濯物が外から見えないようにしています。そのためズボンを吊り下げると、裾が床に擦ってしまいます。そういう問題を解消したいという発想から生まれたアイデアです。

他部署から募ったアイデアを、実際に商品化できる企画にまとめていく過程をお話しください。

まず開発部のメンバー全員で提案書を精査して、「いいな」という話になれば担当を決めて、似たような商品が世の中にないかリサーチします。他にない、また、あったとしても優位性があると判断したら、販売価格に合った原価で作れるかどうかとか調査して、出来るという判断に至れば、役員に起案を出して、承認をもらって開発を進めていきます。

企画から量産化までの道のり

一旦、企画に乗ったアイデアは必ず商品化するのですか。

全てではありません。企画から商品化までは、(1)起案会議、(2)企画承認、(3)商品化決定DR(デザインレビュー)、の3段階があります。

(1)起案会議
開発部の社員がまとめた企画を、開発部の課員や営業部長が吟味します。
(2)企画承認
起案会議でOKが出たら、試作や情報収集にコストと時間をかけられるようになります。そしてある程度形になった段階で、企画承認を受けます。
(3)商品化決定DR(デザインレビュー)
企画承認の後は、量産とほぼ同じモデルを作り、原価計算して、販売先にも見ていただきます。そこで「売れる」と判断されたら、商品化決定DRが行われ、合格すれば、あとは金型を発注するなど、量産化に向けて動き出せます。

企画承認の段階で振り落とされてしまうものもあるということですか。

あります。物は良くても金額が合わないと判断されることもありますし、タイミングの問題で保留になり、機会を見て改めて検討しようと判断されるものもあります。

その間、どれぐらいの期間がかかるのですか。

起案会議から金型発注までで、早くて4ヶ月ぐらいです。複数年にまたがるものもあります。『キャットステップ』の窓用に関しては2年ぐらいかかりました。途中でやめようかなと思ったこともあります。

▲ 耐久試験の写真です。錘を長時間上に載せたり、何千回も上から落としたりして、商品や取り付けた窓ガラスに影響がないか検証します。

『キャットステップ』の場合

cat steps キャットステップ

『キャットステップ』とは

成猫用玩具の一種。透明のポリカーボネート素材で作った天板で、壁や窓に取り付け、ユーザーが猫の普段見えないところを見ることができる商品です。 “ぷにっ”とした肉球が見えて、愛猫の新たな魅力が発見できる。部屋中に取り付ければ、縦横無尽の移動で、愛猫の運動不足解消にもなる。現在、平面用、コーナー用、窓用の3種を販売。

『キャットステップ』の開発期間をお話しください。

2018年の夏頃に着想し、2020年10月、第1号として壁に取り付ける平面用を発売しました。その後、2021年8月にコーナー用、2022年11月に窓用を、それぞれ発売しています。

『キャットステップ』のアイデアを支える独自技術

『キャットステップ』のアイデアはどのように生まれたのですか。

壁に取り付ける猫用のステップは、透明なものを含めて、他社から発売されていました。しかし、いずれも壁にネジで取り付けるタイプの商品でした。壁にネジで取り付けるなんて、普通の方はやらないですよね。 ただ、タカラ産業の商品には、直径1ミリぐらいのピンを何本か打って止めるという方法を採用した商品があります。その技術を応用したら、取り付けが簡単になって売れるのではないかと思って提案しました。ただ、開発部には猫を飼っている社員が1人もいませんので、第一弾の平面用を企画する時は、撮影でご協力いただいた猫カフェのスタッフさんの意見を聞いたり、他部署の社員にアンケートを採ったりして、裏取りはしました。その結果、企画自体はスムーズに通りました。

コーナー用や窓用などのバリエーションを展開し始めた理由をお話しください。

元々、部屋の中に、猫の動線を作ろうと思っていました。『キャットステップ』が1個だけあっても、猫が乗って降りて、乗って降りて、これで終わりですので、大した運動ではありません。部屋を一周回れたら面白いなというイメージがありましたので、売り方としては、1個入りの他に、最低減の動線を作れるよう、3個入りを用意しました。壁の次にコーナー用を用意すれば最低2面はいけます。そして品揃えの一環として窓用も作りました。

徹底した“透明”へのこだわり

『キャットステップ』のこだわりポイントをお話しください。

『キャットステップ』は徹底して透明であることにこだわりました。壁や窓に接する部分も可能な限り透明にしました。プラスチックは脆いので、通常は背面にリブをつけて補強するのですが、それを一切つけずに強度を確保しながらすっきりしたデザインにしました。どうしても透明にできない部分は、違和感がないようデザイン上の工夫を施しています。
実は、窓用も他社から沢山出ていて、愛猫家の方がInstagramなどによく投稿しています。中には楽天のペット用品で1位を獲得した商品もあります。ただそれらの商品は透明ではありません。私はあくまでも、透明にこだわりました。

ご苦労はございませんでしたか。

設計には時間がかかりました。第一に安全に使用して頂くために、壁に挿すピンの角度や本数を確定する為に何度も試作や強度試験を繰り返しました。また、透明にこだわったと申しましたが、壁付ブラケットの成形時に出る模様やピンを見えないようにどうするか等を検討する為に時間がかかりました。ただし、それまでペット用品は『犬猫出入口』しかヒット商品がありませんでしたので、本当に売れるのか確証が持てませんでした。そこでまずはクラウドファンディングMakuakeの応援プロジェクトで様子を見ることにしました。

クラウドファンディングのプロジェクトを経て一般発売へ

Makuakeの評判はいかがでしたか。

サクセスはしましたので、まあまあ良かったと思います。支援の目標金額を10万円に設定しましたが、90万円集まりました。30%オフ、40%オフなどの先行価格を設定して、約70セット売れました。

わかりやすい商品ですので、評判は上々なのではないですか。

タカラ産業のペット用品の中では売れている方ですが、私が思っていたよりも出足は遅いです。やはり壁につけることに抵抗を持つ方はおられます。実際、買う人は商品説明の写真を見て、どうやって取り付けているのかなと思うようです。
特に賃貸住宅に住まわれていると、壁に穴を開けるのは抵抗があると思います。窓用は吸盤なので誰でも取り付けれますが、壁用は、穴の大きさが実際どのぐらいなのか想像ができないとか、心配もあるようです。
そういった心配を取り除くため、取り付け方を説明する動画とは別に、穴があいても補修できることを説明した動画を作りました。
商品の強度試験の様子や、取り付けられる壁の種類も紹介しています。壁に開いたピンの穴は、ホームセンターで市販されている材料で補修できます。この動画は『タカラプラザ』という自社のECショップに掲載しています。壁にピンを刺す怖さが、少しでも払拭出来ればと思います。

約2年をかけて開発した窓用『キャットステップ』

窓用は開発に2年かかったとのことでしたが、ご苦労されたポイントをお話しください。

窓に取り付けるための吸盤が、なかなか良いものがなくて調達に時間がかかってしまいました。日本製は調達価格が高く、商品にした場合、かなりの高額商品になった為、採用できませんでした。海外製を探しましたが、品質面で良い物があっても供給が安定しないなどの問題があり、調達できるまで半年から1年かかりました。

吸盤以外でご苦労はありませんでしたか。

デザインがなかなか決まりませんでした。それで半年ぐらいはかかったと思います。
窓の内外から見えるというのが商品の売りですが、外から見ると、商品の裏側を見ることになりますので、どう見えるのが良いか模索しました。伝手があったD大学の学生さんに協力していただいて、様々なコンセプトやアイデアを出していただきました。もともと吸盤を取り付けるブラケットの形は、猫の形をしていたのですが、そもそも猫が乗る商品なので、猫のブラケットはいらないのではないかという意見から始まって、ブラケットを肉球の形にする案や、本体を天板ではなく箱型にしちゃえとか、壁を作って顔を出せるようにするとか、天板を波々にするとか、様々な案が出ました。また商品を取り付けたままだとカーテンを閉めることができないということで、商品の裏面にカーテンをつける案もありました。他にも猫のおもちゃをつける、ジャングルジムにするなどのアイデアが出て、約3ヶ月間にわたり議論しました。
学生さんたちの意見も参考にしながら検討を進め、最終的に落ち着いたのは、最もシンプルなデザインでした。購入される方は、愛猫メインで考えると思いますので、写真撮影の際など、商品自体はシンプルで目立たない方が良いのではないかという結論に達しました。また、カーテンを閉められるよう吸盤は窓につけたまま、本体のみ取り外せるように設計しました。

『キャットステップ』を軸に、猫シリーズの展開を構想中

『キャットステップ』に対する猫ちゃんたちの評価はいかがですか。

サンプル提供している猫カフェでは、窓用で順番待ちをしていましたよ。日向ぼっこしたり外を眺めるのが好きなのか取り合いをしていました。
平面用の時は、最初は乗ってくれませんでしたので、撮影するために、おやつを乗せておびき寄せて、飛び乗ったときにシャッターを押していました。すでに猫カフェのスタッフさんが自作された木製の天板が取り付けてありましたし、他にもいろいろなおもちゃがあるので惹きつけられなかったようです。

窓用に対するユーザーの反応はいかがでしたか。

窓用もMakuakeで支援プロジェクトを実施しました。やはり平面用やコーナー用よりも反応が良く、約250セット出荷しました。
まだ手応えを感じるところまでは行っていません。窓用、平面用、コーナー用を併用することで、愛猫が部屋中を走り回れる動線を作ってみたくなる、というふうになってくれたら嬉しいですね。

愛猫が部屋中を走り回れる動線という意味では、平面、コーナー、窓の他にもアイデアはお持ちですか。次の商品はいつ頃の展開になりそうですか。

腹案はいくつか、あります。今はまだ窓用を発売したばかりなので様子を見ながら、『キャットステップ』というより、愛猫が家の中で遊べる“猫シリーズ”としての展開を考えています。『キャットステップ』に関しては、さらに認知を広げながら、商品の理解を深めていただけるよう、SNSの活用を始めとする広報活動にも注力したいと考えています。